ブレーキ鳴き現象は、古くから自動車の品質課題において重要なテーマである。近年ではCAE技術の発展に伴い、ブレーキ鳴きの回避対策として、有限要素モデルを用いた複素固有値シミュレーション(構造不安定評価解析)が広範に実施されている。
現在実用に供されている摩擦モデルには、制動力の発生方向は平均摺動速度方向と一致するという仮定が含まれている。この仮定に基づくシミュレーションにおいて、実機で確認されている減速度依存性、及び速度依存性はこれまで考慮できなかった。
前報では、3自由度非線形時刻暦シミュレーションの基礎検討から摺動方向に対して直角の相対運動が、押付け圧と平均摺動速度に依存する線形の減衰効果(以下Cyと称す)として定式化できることを明らかにした。また、摩擦係数の速度依存性についても同様な基礎検討を行い、これを摺動方向に作用する減衰効果(以下Cxと称す)として定式化した。
Cy,及びCxはいずれも従来の摩擦モデルに組み込むことが可能であり、これを拡張摩擦モデルとして提案した。
本報では、拡張摩擦モデルを多自由度モデルに展開し、実用的な実機モデルにおける適用例を示す。
また、非線形静解析から得られるローター・パッド接触間の面圧分布の情報を元に、片当たりシム採用による鳴き傾向の変化を予測した。