高周波数域の騒音を発生するブレーキ鳴き現象は、自動車の品質問題として古いテーマである。近年のコンピュータシミュレーション技術の進歩により、摩擦面の法線力変動と摩擦力変動の関係式を有限要素モデルに盛り込んだ複素固有値計算(構造不安定評価解析)を用いたブレーキ鳴き回避検討が広範に実施されている。現在実用に供されている鳴きシミュレーションに用いられる摩擦モデルは以下に示す仮定を含んでいる。
1 褶動は連続的であり、褶動速度が0とはならない
2 接触は安定的であり、法線力は0とはならない
3 摩擦係数の法線力依存性はなく法線力によらず一定(クーロン摩擦)
4 摩擦係数の褶動速度依存性はなく速度によらず一定(クーロン摩擦)
5 褶動速度は、振動によって生じる褶動面の相対速度より十分高く、摺動力の発生方向は平均褶動方向とみなせる
以上の仮定を含む構造不安定評価解析では、実機の鳴きで観察される減速度依存性、および速度依存性を予測することができず残った課題とされていた。近年、上記仮定中4と5を解消し、シミュレーションモデルに盛り込む手法が提案されている。
本考察では、1)褶動方向と直角方向の相対運動による減衰効果、2)摩擦係数の速度依存性、の両者を線形有限要素モデル(離散化モデル)に盛り込むため、3自由度非線形時刻暦シミュレーションを用いた基礎検討を実施の後、乗用車ブレーキの実用的な条件において、適用可能な線形モデル線形モデリングの定式化を提案する。